「フォーカシングは方法だ」と考える人が多いが、辿ってみると1960年代では、それはカウンセリングで成功するクライエントがしている静かで「重要な内なる行為」(crucial inner act) だと記述されている。ユージン・ジェンドリン は1964年の論文でその内なる行為には4つの局面があるとして、それを「フォーカシングの4つの位相」と記述していた。そこから十数年後に、この「重要な内なる行為」を人に教える方法を考案して、これも「フォーカシング」と名付けた。この時点で、「フォーカシング」には二つの意味が生じてしまった。「重要な内なる行為」としてのフォーカシングと人に教える方法としてフォーカシングだ。筆者は前者をフォーカシングαとし、後者をフォーカシングβと呼んでいる。当日は、体験過程など「重要な内なる行為」の諸側面やそれらがどのようにカウンセリング実践において機能しているかを検討する。
池見 陽(いけみ・あきら)
関西大学 関西大学名誉教授
Boston College, BA、University of Chicago MA、産業医科大学(医博)。産業医科大学講師、岡山大学助教授、神戸女学院大学教授、関西大学教授を経て現在名誉教授。英豪の大学で博士論文審査官。日本フォーカシング協会会長、日本人間性心理学会理事などのほか英米の国際学会理事を歴任。アメリカ心理学会ハンドブック、講談社現代新書『心のメッセージを聴く』ほか、180篇以上の著作・論文・訳論などを英語と日本語で執筆。アメリカ・カウンセリング協会にて「存命の輝ける大家」(Living Luminary)に指名され(2019)た。2020年に日本人間性心理学会より学会賞受賞 。